あいつ何してる? Vol.15 【平成2年卒 ルモアーニュ島田泉子先輩】 from Paris

皆様ご無沙汰しております。平成2年度卒、ルモアーニュ島田泉子と申します。

気持ちは今でも現役大学生ですが、気づけば卒業から30年以上が過ぎ、立教剣道部で一緒に汗を流した仲間は、それぞれの分野で活躍する立派な大人になりました。本物の現役学生の皆さんの全国レベルでの活躍はとても誇らしく、いつも感動し、たくさんのパワーを頂いております。

大学入学直前のフレッシュマンキャンプに参加した際、そこにリーダーとして参加していた応援団部員の方から、剣道部に情報が伝わったことから、入学式当日、華やかなフランス文学科の教室に強面の学ランの先輩方がお迎えに来て、私の大学生活は思わぬ方向へと展開していきました。

クラスメイトより剣道部の仲間と過ごす時間の方がずっと長く、池袋キャンパスでの授業より、志木道場での稽古に軸足を置いていました。自分の体力気力の限界に挑戦するような稽古の日々を過ごした4年間でしたが、今振り返ってみると、人生で最も輝き、たくさん笑い、一生付き合う仲間を得た、かけがえのない時間だったと思います。

平成2年卒のメンバー、大学1年生の夏合宿時(上)と現在(下)。卒業して30年以上たった今も、当時と同じノリで集合してます。

外国語をフランス語で受験したので、先取りしていた分に頼って何とか卒業し、住友商事に入社しましたが、フランス語を専門に使う建設機械営業部に配属されました。スペシャリストに囲まれ仕事をする中、学生時代の勉強不足を痛感し、もっと勉強したいという気持ちが強くなり、4年目の夏、退職して2年間の予定でフランス留学に旅立ちました。

ところが2年後、帰国する直前に、住友商事のパリの事務所に声をかけて頂いたことをきっかけに、また人生の流れが大きく変わり、紆余曲折を経ながら今まで30年間、グループ会社を中心に農薬、食品、化粧品素材等、様々な分野を渡り歩きながら仕事を続けています。欧州を起点にアフリカ、中近東、東欧と、多くの国の人々と仕事をしたのも貴重な経験となりました。

基本的によくも悪くも個人主義で、謙虚さ、細やかな心遣いより、自己主張できてなんぼ、というハードなお国柄で、ごく普通の控えめな日本人が順応していくのは容易なことではありません。そんな私を助けてくれたのは、間違いなく剣道でした。

大学で思いがけない出来事から剣道へ導かれたように、フランスでも偶然の出会いから、パリ剣友クラブに所属することになりました。同じ志を持った人間同士なので、言葉を超えて理解し合える部分が大きく、また日本人であることに関心を持ってもらえる環境でしたので、自然と友人関係を築いていくことができました。40歳の時に結婚した夫と出会ったのもこの道場でした。

フランスは柔道を始め欧州一の武道大国で、剣道もコロナ禍前は8000人を超える剣道連盟登録者がいました。大半は大人になってから剣道を始めますが、中には子供の頃に始める人もいて、日本の警察や強豪大学での稽古経験者も多く、彼らは日本のトップレベルの大学生と接戦を繰り広げたりもします。今年5月にフランス、ボーヴェで開催された欧州剣道選手権では、フランスがジュニア、女子団体、男子団体、男子個人と優勝を総なめにしました。

全剣連からもコロナ禍前までは毎年、全日本選手権出場経験者の先生方が数ヶ月間パリに派遣され、また高名なベテランの先生方も講習会に招聘されて度々指導しに来て下さるので、とても贅沢な稽古環境にいると思います。

でもこちらで剣道を始めた当時、日本からいらっしゃる先生方に異口同音に言われたのは、「貴方のような小柄な女性でも、男性相手に互角に戦えるということを見せて、フランスの女性剣士たちを勇気づける存在になりなさい。」ということでした。

フランスの剣士は往々にして日本人より大柄で腕力があり、大人から始めているため不器用な人も多く、彼ら相手に女性が正面から向かっていくには、勇気も技も必要になります。あまりに痛くて辛くて、泣いて去っていく女性初心者が多いのが30年前の状況でした。

私自身、自分より2、3倍体の大きい人たちにふっ飛ばされたり、思いっきり打ち外されて大きな痣を作ったりと、学生時代とは違った意味でたくさん痛い目に遭いましたが、成長中のナショナルチームの練習パートナーとして、クラブの団体戦メンバーとして(1チームに外国籍1人まで出場できるため)、30代までは学生時代のように試合に向けて稽古しました。40代になってからは、内容の良い立会いをすることへ目標をシフトし、50代では審判、指導の勉強も増えましたが、個人的にはアンチエイジングの重要度が高まっています。

今年のフランス選手権後、初の女子団体戦にて。決勝リーグには進めませんでした。

初の七段審査挑戦はコロナ禍直前、2019年夏の長野でしたが、翌年からのコロナ禍の2年間は、審査どころか道場へ足を踏み入れることさえできない時期が長く続きました。外出は1日1時間以内などと制限された期間もありましたが、ここで剣道から離れてしまってはいけない、道場のメンバーが剣道を忘れないよう手を打たねば、と必死でした。家のリビングルームからオンライン稽古会をしたり、近所の公園の丘の上で友達と竹刀に打ち込みをしたり、これは小柄だからできたことですが、家具を脇に寄せて、室内で防具をつけて1人稽古したり、と剣道人生で最も能動的に、道場以外で稽古をしようと奮闘していました。

晴れて稽古が再開され、昨年11月に3年半ぶりに帰国し、東京で挑戦した審査で何とか合格できたのは、コロナ禍を通して自分でも驚いた、こんなことに負けたくない!負けるものか!という意地のお陰だったかもしれません。私の合格に勇気をもらった、自分もできる気がしてきた、後に続きたい、と多くの人に言ってもらえたので、長年剣道を続けてきた甲斐がありました。

2022年はフランスで、初の女性七段が3人誕生した年になりました。

現在女性剣士は全体の20%を超え、女性剣道の発展を応援する気運が高まっています。男性をも震撼させるようなパワフルな女性剣士も多く誕生しています。日本で学生時代に活躍していた人々が欧州各国に永住しているケースも多く、一緒に稽古会を開催することもあり、欧州全域に剣道を通した仲間の輪が広がっています。

パリ剣友クラブの道場で。真面目な記念写真の後の、おふざけ写真です。

立教剣道部のOB、OGの皆さん、現役学生の皆さんにも、機会を作ってぜひパリへ稽古しに来ていただきたいと思います。大歓迎しますのでご連絡ください!